創造_特許の権利行使

 

創造_特許の権利行使

出典:帝国データバンク発行 帝国ニュース北陸版 2026年5月22日

 

以前、「当たり前を権利化」というテーマ(2024年5月24日号)で特許取得についてお話ししました。今回はその続編として、私が保有する特許で実際に権利行使した実例をご紹介します。
現在、私は特殊な繊維の特許を保有し、「冷却ペットボトルカバー」として商品化し販売しています。ある日ネットショップを見ていると、ペット用品として私の特許技術を侵害している疑いのある冷却繊維商品を発見しました。
すぐ実物を購入し、開封から内容物まで全てを写真撮影しました。本来、法的に確実な証拠を残すなら「未開封からハサミを入れるまで切れ目なく動画撮影する」、実店舗なら「入店からレジでの購入、退店まで切れ目のない動画に収める」のがベストです。「確実にその企業が販売した」という事実を担保するためです。その後、届いた製品の縫製糸を抜き、パーツごとに分解して構造を分析した結果、間違いなく特許侵害だと確信しました。
特許侵害が発覚した場合、放置すれば「無料で使える技術」になってしまうため、相手に警告文を送ることにしました。私は常に2種類の警告文を用意しています。一つは専門家向けの事実のみを綴ったもの、もう一つは素人向けの迫力を持たせた文章です。今回は後者を選択しました。
すると相手は弁理士に相談したらしく、「自分たちの方が先に商品化の準備をしていた」と『先使用権』を主張してきました。これは裏を返せば、特許の抵触(負け)を認めたということです。そこで先に準備していた証拠の提示を求めましたが、有効なものは出てきません。それでも相手は「販売はやめない」と強気でした。
そうなると裁判をするしかなくなります。弁護士から訴状のひな形をもらって表紙を書き始めたとき、ふと一つの心理戦を思いつきました。
根拠はないものの損害賠償額を「2,000万円」と書き、その表紙だけをプリントアウトして相手の社名と住所にモザイクをかけた写真を撮りました。ただし相手の郵便番号だけは「消し忘れたふり」をして残しました。その画像を自社ブログにアップし、「これから特許侵害で裁判をします」という記事を投稿したのです。

その後、毎日アクセス解析をしていると、相手の所在地である横浜から長時間アクセスがあるのを発見しました。「相手が見ている」と確信した私は、次の手紙に「賠償金は請求しないから販売をやめろ」と書きました。相手の返答は「当社に落ち度はないが、これ以上交渉したくないので販売をやめる」というもの。これで完全な勝利です。費用は内容証明郵便10通分の約1万2千円。弁護士に頼めば数十万円かかる案件でした。

法的には勝ちましたが、私の利益は増えませんでした。特許の使用料を頂きたかったのですが、強硬手段に出た結果、その商品の市場を自ら潰してしまったのです。
ところが翌年、全国から60社だけが参加できるクラウドファンディング会社のリアルイベントに出展する機会を得ました。そこで知名度が上がり、県外の企業から「その特許を使いたい」と連絡があったのです。結果として私が潰した市場が復活し、念願の特許使用料が入るようになりました。
また、私が販売している冷却ペットボトルカバーは2026年4月21日ジャパン・レジリエンス・アワード2026を受賞しました。
証拠集めから心理戦の展開、そしてライセンス獲得まで、弁護士や弁理士を使わずに自力でやり遂げたこの経験は、今後のビジネスにおいて大きな財産となっています。

 

筆者紹介
砂原康治(すなはら こうじ)
1964年生まれ、石川県出身。学卒後、電子回路やソフトウェアの設計業務に携わり、1994年に企画・設計・製造を一人で手がけるメーカーとして独立。仮設信号機、LED照明器具をはじめ多くの製品を開発し、特許や事業としても販売。グッドデザイン賞、ベンチャーフェア2000審査委員会奨励賞(現:ベンチャーアワード)など受賞歴多数。最近では、自社開発した「冷却ペットボトルカバー」をMakuakeに掲載し、目標金額の2271%の応援購入金額を獲得するなど、クラウドファンディングでも好結果を続けている。専門分野である新商品開発、 販路開拓、 知的財産、 IT・Eコマースなどの分野で、公的機関の商品開発アドバイザーとしても活動し、2024年4月より「いしかわ大学連携インキュベータ」のチーフインキュベーションマネージャーを務める。