古くから、逆位相の音を出して騒音を打ち消す技術(ノイズキャンセリング)は存在します。しかし、これには「マイクがある特定の場所の音しか消せない」という欠点があり、部屋全体や空間全体の静寂を作ることは困難でした。
そこで私は考えました。「空間は面に囲まれている。ならば、外から入ってくる騒音の原因である『面の振動』自体を止めてしまえばいいのではないか」と。
■ 原理:振動を「質量」と「逆動作」で抑え込む
考案した仕組みは以下の通りです(図参照)。
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構造: 壁などの面の一箇所に、マイクとスピーカー(アクチュエーター)を同軸に取り付けます。
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動作: 面が振動してマイクが「押される」と、その信号をアンプが増幅し、スピーカーへ送ります。
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制御: ここで位相は反転させません。マイクとスピーカーの向きを逆に設置しているため、マイクが押された瞬間、スピーカーは「引く」方向に動きます。
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効果: スピーカーのマグネット側の質量(イナーシャ)を利用し、壁の動きとは逆の力を加えることで、振動そのものをピタッと止めます。
※製品化の際は、マイクがスピーカーの磁気干渉を受けないよう絶縁し、同一面に取り付ける形を想定しています。
■ 実験結果と用途の広がり
実際に試作機で実験したところ、板の振動が見事に止まりました。「これはすごい」と確信し、以下の用途を思いつきました。
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一般家庭: 窓ガラスに貼り付けて外部騒音を遮断(目標価格2,800円)。
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潜水艦: 艦内の騒音(振動)を外部へ漏らさないステルス技術。
まずは民生品として普及させ、その実績を持って軍事技術へ売り込む……そんな特許戦略まで妄想が膨らみました。
■ 自動車サスペンションへの応用と予言
さらに、「直線運動を制御する」という点から、これは自動車のサスペンションにも応用できると考えました。 「おそらく、将来はスピーカーメーカーがサスペンションを作る時代が来るだろう」と予測していましたが、数年後、実際にBose社とキャデラックが同じ原理の電磁サスペンションを発表しました。
当時、私は「コイルへの大電流による電源問題」を懸念していましたが、彼らはそこも見事に解決していました。自分の予測した課題とその解決策が、世界的企業の開発プロセスと一致していたことは、エンジニアとして嬉しい答え合わせでした。
■ まとめ:なぜ製品化されないのか?
その後、あるパソコンメーカーから「PCの騒音を止めたい」と相談を受けましたが、残念ながらこの技術は「面の振動」を止めるものであり、ファンなどの「風切り音」には効果がありません。
しかし、自動車や窓ガラスなど、振動が騒音源となっている分野であれば、今すぐにでも製品化できそうな技術です。未だに広く普及していないのが不思議でなりません。

