出典:帝国データバンク発行 帝国ニュース北陸版
株式会社ソロモン 代表取締役 砂原康治 (商品開発アドバイザー)
今回は、アクロバティックな特許販売の実例をご紹介いたします。雑談と思ってお読みください。
あるときアイディアを売ろうと思いました。どこに何を販売するか考えるため新聞の株価欄を見ながら考えました。この企業に何を提案したらNOと言えないだろうかと1社あたり3秒考えました。3秒考えて思いつかないときは次の企業へ移ります。ある企業の名前を見たときピンときました。この企業にこのアイディアを提案すれば、買ってくれるのではないかと思ったのです。そこで、その企業の研究所に電話し、「提案があるので製品を1台無償で送ってほしい」と伝えたところ、提案を聞いてくれることになりました。製品が到着したので、改造してアイディアを盛り込み、特許出願も済ませて試作品を研究所に持ち込みました。
普通は、そこで秘密保持契約を締結し、発明の内容を開示しますが、どんな発明か分からないのに、秘密保持契約を締結することはありません。少しずつ開示しながら秘密保持契約までたどり着く方法もあります。しかし、私はいきなり試作品を見せ動作させました。研究所の方は驚いたようでした。いきなり試作品を見せたので、よほど特許に自信があると思ってくれたのでしょう。その後、秘密保持契約を締結して特許の内容を開示しました。順序が逆になりましたが、ここで一旦、安定状態になりました。
次に、研究所は類似の特許がないかを調査しました。その時点では見つかりませんでした。その後、1年待っても類似の特許が公開されないので、取引の段階に入りました。研究所からの提案は、次の2つです。
①特許の持ち分を50%譲渡し共同開発に進む
②特許の持ち分を100%譲渡する(現金を払いお帰り頂く)
①の場合、業界トップメーカーと共同開発を行い、売上に対してロイヤリティを受け取ることになります。年間100億円売れた場合、ロイヤリティを2%とすると、その半分の1%(1億円)受け取ることになります。
普通に考えれば①を選ぶと思いますが、私は②を選びました。特許出願から公開まで1年半かかるので、特許が公開になるまであと半年あります。しかし、研究所は特許を自分好みに補正したいので、1年以内に持ち分を手に入れる必要があります。今回の発明にかかった時間は3秒だったので、難易度は案外低く、私は、残り半年の期間で誰かが類似の特許を出願している可能性があると感じました。これは、常に先行技術調査を行い、世の中の技術レベルを把握しているから感じることだと思います。はじめに企業名を見ながら1社あたり3秒考えたときに、発明と先行技術調査を頭の中でやっていたのです。実際に行動するときは、特許情報プラットフォーム(Jplatpat)を使って正確に先行技術調査を行います。
この取引の勝因は3つあります。
◆いきなり電話で試作品を送れと言ったこと【強く出る】
◆秘密保持契約無しでいきなり試作品を見せたこと【強く出る】
◆現金化してサッと引いたこと【強く出ると思わせて撤退】
その後の半年で類似の特許は見つかったのでしょうか。