出典:帝国データバンク発行 帝国ニュース北陸版 2025年9月19日
株式会社ソロモン 代表取締役 砂原康治 (商品開発アドバイザー)
仕事をするうえで「人生の四季は必要か?」というテーマについてお話しします。
以前、ラジオであるカレーチェーン店の創業者の話を耳にしました。その方はもともと喫茶店を営んでいましたが、あるとき奥さんが家庭で作っていたカレーをメニューに加えたところ大変好評を博し、次第にカレー専門店へと業態を変えていきました。そしてその店は、現在では誰もが知る大規模なカレーチェーンへと発展しました。
創業者の方は50代で経営から引退しました。その理由は「自分は経営のプロではないから、今後はプロに任せるべきだ」と考えたからだそうです。おそらく、奥さんとの結婚という「人生の季節の出会い」が、結果的に事業成功への道を切り開いたのかもしれません。人生の流れが良い結果へとつながった一例だと言えるでしょう。
このカレーチェーンは上場しているので、創業者は「使い切れないほどの資産を得たので、このお金を音楽家の支援に役立てたい」と考えました。若い頃、苦しい時期にラジオから流れるクラシック音楽に癒やされた経験があったからです。そこで名古屋市内に音楽ホールを建て、音楽家を支援する財団を設立しました。私はその話に感銘を受け、賛同の手紙を送りました。すると手書きのハガキで返信をいただき、その中には「お仕事頑張ってください」という温かい言葉が添えられていました。見ず知らずの一人の声に耳を傾け、直筆で返事をしてくれたことに深く驚きました。
この経験から、事業の成功はゴールではなく、その後に本当にやりたいことを実現するための準備段階なのかもしれないと考えるようになりました。
一方で、私自身の体験もあります。以前から実現したいテーマがありましたが、試作品を一つ作るだけでも数千万円が必要で、なかなか前に進めませんでした。そんなとき、本田宗一郎さんの「軽さはパワー」という言葉を思い出しました。そこで私は、実行に不要なものを徹底的に削ぎ落とすことを決意しました。6年前のことです。手元に残したのは、服と靴、パソコン、そして車だけでした。その生活は極端でしたが、結果的に思考の余計なノイズがほぼ消え、仕事に集中できる環境が整いました。さらに、人間関係においてもマイナスの影響を与える人からは距離を置きました。すべてを自分一人で背負うなら、成果は運と努力次第であり、後悔することはないと考えたからです。
そのようにして身軽になった結果、その3年後には念願の試作品を完成させるチャンスが巡ってきました。これは、思考を減らし集中する環境づくりが大きな要因だったと思います。特に基礎研究や発明のように、一つの課題を深く長く考え続ける仕事においては、外部からの割り込みを極力避けることが重要だと感じています。
カレーチェーン店の創業者の例と私自身の経験という二つの事例を紹介しましたが、どちらの生き方が良いかは一概には言えません。人によっては、人生の四季の流れが必要不可欠な場合もあれば、逆に私のように季節を持たない生き方が向いている場合もあるでしょう。
結論:人生の四季は、必要な人には必要であり、不要な人には不要である。
成功への道は一つではない:人生の四季を謳歌するか、一点集中の冬を生きるか
仕事を通じて自己実現を目指す上で、どのような生き方を選ぶべきか。豊かな出会いや経験、すなわち「人生の四季」を積極的に受け入れるべきか。それとも、一つの目標のために全てを削ぎ落とし、集中を研ぎ澄ますべきか。
今回は、カレーチェーン店の創業者と私自身の対照的な経験から、この根源的な問いについて考えてみたいと思います。
加算のアプローチ:出会いと感謝が育んだ成功と、その先の夢
以前、ある有名なカレーチェーン店の創業者の話をラジオで聞きました。
もともと喫茶店を営んでいた彼は、奥様が家庭で作っていたカレーをメニューに加えたところ、大変な評判を呼びます。これが転機となり、事業はカレー専門店へと姿を変え、今や誰もが知る大企業へと成長しました。このエピソードは、奥様との結婚という「人生の季節の出会い」が、いかに大きな成功の種となり得るかを象徴しています。
しかし、彼の物語が本当に示唆に富むのは、その後の人生です。彼は50代で「自分は経営のプロではない。今後はプロに任せるべきだ」と潔く経営の第一線から引退します。そして、上場によって得た莫大な資産を、自身の新たな夢のために使うことを決意しました。
その夢とは、音楽家の支援です。若い頃、経済的に苦しかった時期にラジオから流れるクラシック音楽に心を救われた経験から、「今度は自分が音楽家を支える番だ」と考えたのです。彼は私財を投じて名古屋市内に音楽ホールを建設し、音楽家を支援する財団を設立しました。
この話に深く感銘を受けた私は、創業者の方へ賛同の手紙を送りました。すると驚いたことに、ご本人から手書きのハガキで返信が届いたのです。そこには「お仕事頑張ってください」という温かい言葉が添えられていました。一介の若者の声に真摯に耳を傾け、直筆で応えるその姿勢に、彼の成功の本質を垣間見た気がしました。
彼の人生は、出会い(春)、事業の成長(夏)、収穫と次世代への継承(秋)、そして新たな夢への準備(冬支度)といった、まさに「人生の四季」そのものです。事業の成功はゴールではなく、本当にやりたいことを見つけ、それを実現するための豊かで実りある準備期間だったのかもしれません。これは、人や社会との関わりを積み重ねていく「加算のアプローチ」と言えるでしょう。
減算のアプローチ:すべてを捨てて手に入れた「一点集中の力」
一方で、私自身の経験は全く対照的です。
私には長年実現したいテーマがありましたが、試作品を一つ作るだけで数千万円という資金の壁にぶつかり、計画は完全に停滞していました。そんな時、ふと本田宗一郎氏の「軽さはパワーだ」という言葉が頭をよぎりました。そして、私は決意しました。目標達成に不要なものを、すべて削ぎ落とそうと。
それは6年前のことです。私は生活を徹底的に切り詰め、手元に残したのは最低限の服と靴、仕事道具のパソコン、そして移動手段の車だけ。常識的に見れば極端な生活でしたが、この「減算のアプローチ」は驚くべき効果をもたらしました。物理的なモノが減ると同時に、思考のノイズが消え、解決すべき課題の輪郭がかつてないほど鮮明になったのです。
さらに、人間関係においても、マイナスの影響を与えると感じる人とは距離を置きました。「すべてを自分一人で背負うならば、結果は運と努力次第。そこに後悔はない」と覚悟を決めたからです。
このように、自ら「冬の時代」に身を置くことで、私は一つのことに深く集中できる環境を強制的に作り出しました。その結果、3年後、ついに念願だった試作品を完成させるチャンスを掴むことができたのです。特に、基礎研究や発明のように、外部からの割り込みを避け、一つの問いを長く深く考え続ける必要がある分野において、この「減算的思考」と「集中のための環境設計」は極めて有効だと痛感しています。
結論:あなたはどちらの戦略を選ぶか?
カレーチェーン創業者のように、豊かな人生の四季を経験し、人との縁を力に変えていく「加算の生き方」。 そして、私のように、目標のためにすべてを削ぎ落とし、一点集中で道を切り拓く「減算の生き方」。
どちらが正解ということはありません。これらは単なるライフスタイルの違いではなく、目的を達成するための「戦略」です。
多くの人を巻き込み、事業を拡大していくタイプの仕事であれば、創業者のように多様な経験や人脈が力になるでしょう。一方で、深い思考と長時間の没頭が求められる仕事であれば、私のように意図的に環境をシンプルにすることが突破口になるかもしれません。
大切なのは、「今の自分にとって、どちらの戦略が有効か?」と自問することです。
あなたは今、何を成し遂げたいのでしょうか。 そのために、人生に新たな出会いや経験という「四季」を招き入れますか? それとも、敢えて厳しい「冬」に身を置き、自らの内なる力と向き合いますか?
もしかしたら、人生の大きな流れの中では、この二つの戦略を使い分けるべき時期があるのかもしれません。あなたの選択が、あなただけの成功物語を紡いでいくのです。

