創造_仕様の決め方

帝国ニュース北陸版 に2回目が掲載されました。

創造_仕様の決め方(出典:帝国データバンク発行 帝国ニュース北陸版)

【仕様の決め方】

株式会社ソロモン 代表取締役 砂原康治 (商品開発アドバイザー)

 今回は、製品仕様の決め方について説明いたします。売れれば成功なので適当に決めても良いのですが、できるだけ長期的に成功の確率を上げたいところです。

 まず、1項目目は、会社の目的をはっきりさせます。会社の目的と違う物を作っていては何のメーカーか分からなくなります。それが消費者にも伝わってしまいます。ブランドイメージがボケるということです。

 2項目目は、外注の技術も含めて自社が使える技術をデータベース化します。これで、できることが決まります。

 3項目目は、何を作れば良いのか考えます。実際には考えるのではなくマッチングを行います。何とマッチングするかというと世の中にある製品の全カテゴリと自社技術をマッチングさせるのです。自社技術をどの分野へ使えば今までにない画期的な製品ができるかを考えるのです。頭に自社技術を置き1分間に20くらいの商品カテゴリをマッチングさせていきます。1回目はこのくらいのスピードでマッチングを行い、可能性がありそうな商品カテゴリをリストアップします。1万カテゴリくらいを検討すれば10や20は候補が残ると思います。

 4項目目は、製品の仕様を詰めていきます。会社の目的や企業理念と照らし合わせて当社の製品はこうあるべきという仕様を決めるのです。機能、性能、価格など詳細に決めます。設計するのではなくお客さんが欲しいと思う仕様を予測するのです。

 5項目目は、実際に設計製造できるか検討します。そして目標の価格に入るかどうかも検討します。そこで合格した場合次に進みます。ここで原価が想定より高いと感じたときは直販すればよいのです。良い物が妥当な価格で消費者にとどけられます。直販のメリットは価格だけではありません。流通業者に新製品を提案すると”分からない人に知らない物”を説明することになり時間を浪費します。令和になりメーカーは直販が当たり前の時代になったと思います。

 6項目目は、同様の製品が販売されていないか調査します。調査した結果同様の製品が見つかった場合はさらに仕様をブラッシュアップします。ここでの注意点は、先に調査をしないことです。先に考えるのです。自分の考えを持ってから他社製品を見ます。そうしないと永久に後追いをし続け独自色を出せないまま時間が経過します。利益は知恵に付いています。

 ここまで具体的に製品を計算する手順ができていれば人間が行う必要はないと思っています。商品企画はコンピュータが行えば良いと思います。成績が良いソフトウェアの経験を積んだ戦略ファイルが価値を持ちそうです。

少し詳しく書いてみました。

「ひらめき」は計算できる。長期的に売れ続ける製品仕様の作り方

 

はじめに:製品企画は「勘」から「計算」の時代へ

 

新製品の企画において、「売れれば成功」というのは紛れもない事実です。しかし、その成功を一度きりのものにせず、長期的に、そして高い確率で再現し続けるためには、場当たり的な意思決定ではなく、体系化されたプロセスが必要不可T欠です。

今回は、私が実践している、製品仕様を論理的に導き出すための6つのステップをご紹介します。これは、ひらめきや勘といった不確実な要素を排し、「計算」によって成功確率を高めるための設計図です。


 

ステップ1:羅針盤を定める ― 会社の「目的」を明確にする

 

全ての意思決定の土台となるのが、「自社は何のために存在するのか」という、会社の根本的な目的です。

なぜなら、この目的から外れた製品を作ってしまうと、「一体、何のメーカーなのか」という企業のアイデンティティが曖昧になります。この曖昧さは必ず消費者に伝わり、「ブランドイメージがぼやける」という致命的な結果を招きます。まず自社の理念や存在意義という羅針盤を明確にすることで、全ての製品に一貫した「らしさ」という魂を込めるのです。


 

ステップ2:武器を把握する ― 自社技術のデータベース化

 

次に、自社が持つ「武器」を全て洗い出します。これは、社内のコア技術だけでなく、いつでも協力可能な外注先の技術やノウハウも全て含めた「利用可能技術のデータベース」を作成するということです。

このデータベースが、これから生み出す製品の「実現可能性の範囲」を決定します。自分たちが何者で(ステップ1)、何ができるのか(ステップ2)を正確に把握することが、全ての戦略の出発点となります。


 

ステップ3:未知の結合を探す ― 技術と市場の高速マッチング

 

ここからが、アイデア創出の核心部分です。多くの人は「何を作ろうか」とゼロから頭を捻りますが、その必要はありません。行うのは「マッチング」です。

自社の技術データベースと、世の中に存在する全ての製品カテゴリを、高速で掛け合わせるのです。「自社のこの技術を、あの分野に応用すれば、今までにない画期的な製品が生まれるのではないか?」という思考実験を、猛烈なスピードで繰り返します。

例えば、頭の中に自社技術を固定し、1分間に20カテゴリくらいのペースで「食品」「文房具」「自動車」「医療」「ペット用品」…と、思考のシャワーを浴びせ続けます。この高速な1次スクリーニングを1万カテゴリほど行えば、常識では考えつかなかったような、可能性を秘めた候補が10や20はリストアップされるはずです。


 

ステップ4:顧客の理想を描く ― 仕様の具体化

 

有望な製品カテゴリが見つかったら、次はその仕様を具体的に詰めていきます。ここで重要なのは、「設計」するのではなく、「顧客が心の底から欲しいと思う理想の仕様」を予測し、描き出すことです。

会社の目的(ステップ1)に立ち返り、「当社の製品であるならば、機能、性能、デザイン、価格はこうあるべきだ」という理想像を定義します。これは技術的な制約から考えるのではなく、あくまで顧客の視点に立って、最高の体験を定義する作業です。


 

ステップ5:現実との接続 ― 実現可能性と直販戦略

 

理想の仕様を描き出したら、初めてここで技術的な検討に入ります。ステップ2で作成した技術データベースを元に、その仕様が物理的に製造可能か、そして目標とする原価に収まるかを検証します。

もし、原価が想定より高くなったとしても、すぐに諦める必要はありません。その解決策が「メーカーによる直接販売(D2C)」です。流通マージンをカットすれば、高品質な製品を、消費者が納得する妥当な価格で届けることが可能になります。

また、直販には価格以上のメリットがあります。特に画期的な新製品の場合、流通業者にその価値を理解してもらうのは、「知らない人に、未知のものを説明する」という多大な時間と労力を要する作業です。令和の時代、メーカーが自ら顧客と繋がり、直接価値を届けることは、もはや当たり前の選択肢なのです。


 

ステップ6:独自性を磨く ―「先に考え、後で調べる」競合分析

 

最後に、同様の製品が市場に存在しないかを調査します。ここで、絶対に守るべき鉄則が一つあります。それは、「先に調査しない」ことです。

まず、自分自身の頭で考え抜き、製品の核となるアイデアと仕様を固める。その確固たる「自分の考え」を持ってから、初めて競合製品を見るのです。この順番を逆にすると、無意識のうちに他社の製品に影響され、その模倣やマイナーチェンジの枠から出られなくなります。結果、独自性のない後追い製品しか生み出せず、価格競争に巻き込まれてしまいます。

利益は、他とは違う優れた「知恵」にこそ宿るのです。


 

おわりに:商品企画をコンピュータに委ねる未来

 

ここまで、製品を論理的に「計算」する手順を説明してきました。このプロセスが確立できれば、もはや人間の直感だけに頼る必要はありません。将来的には、この一連の思考をアルゴリズム化し、膨大な市場データと技術データを元に、コンピュータが最適な商品企画を提案する時代が来るでしょう。その時、最も価値を持つのは、成功体験を学習し続けた「戦略ソフトウェア」そのものになるのかもしれません。