
出典:帝国データバンク発行 帝国ニュース北陸版
株式会社ソロモン 代表取締役 砂原康治 (商品開発アドバイザー)
”次どうしよう”と思ったときは、次の手を考えていないときではないでしょうか。私はこんなとき、後手に回ってしまったと思うようにしています。将棋でいう先手とは少し意味は違いますが、自分が主導権を持って有利な状態を先手と思っています。
世の中が変化したとき、現在販売している商品が価値を持たなくなることがあります。そのとき、次これを出そうと準備ができているときは先手に回っていると思います。先手に回るとは、世の中の変化を予測し、先に作戦を準備してある状態です。しかし、自分が思うような未来が来るとは限りません。そのため、複数のプランを準備しておく必要があります。複数のプランを準備するために必要なのは、多くの基礎研究を行い、それを元にし、いま世に出すと価値を持つ商品を組み立てる能力、または基礎研究を元にした商品案です。
基礎研究は、ある程度範囲を決めて行う必要があります。趣味なら何を研究しても良いのですが、自社の売り上げの元となる研究なので、ある程度範囲を限定することになります。その限定する範囲は、自社の目標から導き出されることになります。目標を決め、到達するために必要な商品案を複数持ち、世の中の変化に対応してタイミング良く作戦を実行すると良いと思います。それと後手に回らない秘訣は、独自の路線を描いておくことです。他社製品を見て慌てて同じような製品を開発すれば、必ず後手に回ります。独自の路線が間違っていたら失敗ですが、賭けないと勝てないのも事実です。
世の中の変化に気づくには、事件、事故、災害などの情報収集を常に行っていると良いです。例えば、Yahooニュースなどを見て最近増えてきたニュースの種類などをチェックすると良いかもしれません。ニュースはテレビではなくネットニュースを見て、記事数や文字数を見るようにしています。ニュースの傾向をつかむためです。
40年近く前の学生時代、歴史の先生から教わったことがあります。先生から「テレビのニュースが正しいとは限らないので本質を見抜くにはどうすればよいか」という問いかけがありました。普通の人は新聞、テレビ、ラジオなどの情報しか入手できないので、どうするのだろうと思いました。先生の回答はこうです。「複数の情報を入手し、その違いを考えてみる」でした。今はインターネットがあるので、同じ事柄に対して多くの情報を入手することができます。それも違う立場の人が同じ事柄について発信しています。私の場合、情報収集の方法は、YouTube、X(旧Twitter)、Yahooニュースなどです。テレビはもう10年以上見たことがありません。ネット上の情報の方が、多くの立場の人が発信しているので参考になります。
普段から情報収集しておくと、何かがつながり閃くことがあります。この閃きを蓄積しておくと困ったときの助けになります。
私の場合、後手に回ってしまったと思ったとき、次の手は頭の中を探します。蓄積しておいた閃きの中から、使えるものはないか、と探すのです。起業直後は、この閃きの蓄積がないので、前回(「もがく」8月25日号)で書いたように断食をして無理矢理知恵を絞り出したのです。
少し詳しく書いてみました。
常に「先手」を打つ思考法。未来を予測し、主導権を握り続けるための情報戦略
「さて、次の一手はどうしようか…」
もしあなたがビジネスの局面でこう呟いたとしたら、それはすでに「後手」に回ってしまった証拠です。将棋でいう「先手」とは少し意味が異なりますが、ビジネスにおいて私が定義する「先手」とは、常に変化の主導権を握り、自らが描いた未来に向かって有利な状況を作り出している状態を指します。
世の中の変化によって、昨日までのヒット商品が明日には価値を失う。その時、「さあ、次は何を出そうか」と慌てて考えるのが後手。一方で、「この変化は予測済みだ。プランBを実行しよう」と、静かに次のカードを切れるのが先手です。
では、どうすれば常に先手に回り続けられるのか。それは、未来を予測し、複数の作戦を事前に準備しておくことに他なりません。
第一章:先手を打つための「三種の神器」
自分が思うような未来が来るとは限りません。だからこそ、経営者は常に複数のプランを準備しておく必要があります。そして、そのプランを生み出す源泉となるのが、私が「三種の神器」と呼ぶ3つの要素です。
-
基礎研究:これは、自社の事業目標から導き出された特定の範囲内で行う、継続的な知の探求です。趣味の探求とは異なり、未来の売上の源泉となるべき戦略的な研究活動です。
-
商品案のストック:基礎研究で得られた知見を元に、「今、世に出せば価値を持つであろう商品」のアイデアを、常に複数組み立てておく。これが、変化に対応するための弾薬となります。
-
独自の路線:これが最も重要です。他社の新製品を見て、慌てて類似品を開発すれば、必ず後手に回ります。市場の二番煎じになるだけです。自らが信じる独自の路線を描き、そこに賭ける。もちろん、その路線が間違っていれば失敗します。しかし、賭けない限り、大きな勝利は掴めないのもまた事実なのです。
第二章:未来の兆候を掴む情報分析術
独自の路線を描き、変化を予測するためには、質の高い情報収集と分析が不可欠です。
私が注目しているのは、日々の事件、事故、災害といったニュースです。しかし、その中身を一つひとつ精読するのではありません。Yahoo!ニュースのようなプラットフォームで、「最近、どのジャンルのニュースが増えてきたか」という記事数や文字数の”傾向”をマクロに掴むのです。世の中の関心がどこに向かっているのか、その潮目の変化を読み取ります。
そして、個別の事象を深く理解する際には、40年近く前の学生時代に歴史の先生から教わった原理原則が、今でも私の情報分析の根幹を成しています。
ある日、先生は私たちにこう問いかけました。 「テレビのニュースが正しいとは限らない。では、物事の本質を見抜くにはどうすればよいか?」
当時、情報源が限られていた私たちは答えに窮しました。先生の回答は、シンプルかつ普遍的でした。 「複数の情報を入手し、その”違い”を考えてみることだ」
幸いにも、現代にはインターネットがあります。同じ一つの出来事に対して、YouTube、X(旧Twitter)、各種ネットニュースなど、全く違う立場の人々がそれぞれの視点で情報を発信しています。私はもう10年以上テレビを見ていません。なぜなら、多様な立場からの情報に触れ、その差異を比較検討することこそが、偏りのない本質的な理解につながると確信しているからです。
第三章:最大の戦略資産は「閃きの蓄積」である
このようにして日々、質の高い情報を浴び続けていると、ある瞬間に、点と点であった情報が線でつながり、「閃き」が生まれることがあります。
この閃きこそが、経営者にとって最大の戦略的資産です。私は、この閃きを一つひとつ、頭の中のライブラリーに蓄積していくことを習慣にしています。
そして、万が一、自分が後手に回ってしまったと感じた時。私が真っ先に探すのは、外部の解決策ではありません。自分の頭の中にある、この「閃きの蓄積」です。「この状況を打開するために、過去のあの閃きは使えないか?」と。
起業当初、私にはこの貴重な蓄積がありませんでした。だからこそ、以前のコラム(「もがく」8月25日号)で書いたように、断食という荒療治によって、無理矢理にでも知恵を絞り出すしかなかったのです。
常に未来を見据え、独自の路線を描き、そのための情報を多角的に収集し、思考を続ける。その過程で生まれた閃きを大切に蓄積しておくこと。それこそが、変化の激しい時代において、決して後手に回ることなく、自らの運命の主導権を握り続けるための、唯一にして最強の武器となるのです。
