先使用権の戦略的利用と立証の重要性
先使用権の定義と立証の難しさ
先使用権とは、他者が特定の技術について特許出願を行う前から、すでにその技術の実施(製造・販売)を事業として行っていた者に認められる権利です。これにより、特許権が成立した後も、その事業を継続することが可能になります。
しかし、「昔から事業をしていた」という主張だけでは権利は認められません。先使用権を有効に主張するためには、特許出願時よりも前にその事業を実施していたことを示す客観的な証拠が必要となります。
確実な証拠保全の方法
証拠は、その事業や技術の実施を開始した時点で残しておく必要があります。後から証拠を作成しようとしても、正確な日付の確定が困難になるためです。
最も確実な証拠保全の方法の一つは、公証人役場を利用した確定日付の取得です。
具体的には、
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製造に関する書類(設計図、製造記録など)
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販売に関する書類(契約書、納品書など)
といった証拠物を封筒に入れ、公証人役場で日付の証明(確定日付)を取得します。
私の場合は、この証拠書類を1つの証拠につき3通作成しました。
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裁判所提出用: 裁判になった際に開封・提出するもの
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相手方開示用: 交渉時に相手に提示するもの
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予備: 保管用
特許侵害交渉の事例と先使用権の破綻
私は、自社の特許に抵触している企業に対し、製造販売の中止を求める内容証明郵便を送付し、交渉を開始しました。
相手企業は、交渉の初期段階で特許侵害の事実については争わず、すぐに先使用権を主張してきました。これは事実上、特許の有効性自体は認めたことを意味します。
そこで私は、次の段階として先使用権の立証を追求しました。結果、相手企業は販売開始時に適切な証拠を残しておらず、先使用権を立証できませんでした。
訴訟リスクと和解の成立
先使用権の立証に失敗した後も相手企業が販売を継続したため、私は訴訟の準備(訴状の作成)に入りました。
しかし、知的財産権に関する訴訟は東京地方裁判所が管轄となることが多く、地方在住の私にとっては旅費や時間的な負担が大きく、訴訟によって得られる損害賠償額との費用対効果を考慮する必要がありました。
訴訟提起の直前というタイミングで、相手企業から販売を中止するとの連絡があり、結果的に訴訟の手間をかけることなく解決に至りました。
他社の賢明な対応
同時期に、特許に抵触していた別の企業が1社ありました。その企業は、私の内容証明郵便を受け取った後、すぐに弁理士に相談し、速やかに販売中止を決定して連絡してきました。これは、無用な法的紛争を避け、費用と時間を節約する賢明な判断であったと言えます。

