
出典:帝国データバンク発行 帝国ニュース北陸版 2024年11月22日
株式会社ソロモン 代表取締役 砂原康治 (商品開発アドバイザー)
今回は、”自分で考える”というテーマで2つ実例を書いてみたいと思います。
私は昔、酒蔵のアドバイザーをしていました。蔵の要望は、”知名度を上げる”事でした。蔵を訪問し絞りたての日本酒を試飲しました。そのとき私は、日本酒を知らなかった事に気づきました。こんなにおいしい酒が近くにあったとは驚きました。これは絶対売れると思いました。また、知名度も上がると確信しました。
このお酒のことを、時々、私の事務所に遊びに来る上場企業の役員の方に意見を聞いてみました。その方は、「地元でたくさん売れていない物は外では売れない」とのことでした。なぜかその理由は教えていただけませんでした。たぶん理由は無く、その方の単なる思い込みだと思いました。私は、その酒を飲みたい人に売ればそれで良いと思いました。実際に知名度を上げる方法を考えアドバイスしました。数年後、その酒蔵の酒が、ノーベル賞授賞式に2年連続使われました。結果、地元で売れていないと外では売れないというのはウソでした。私が思ったように、飲みたい人に売れば良いのです。いくら人生の先輩であっても、経営の先輩であっても、その酒蔵が置かれた状況を体験したことがあるとは限りません。だから何事も自分で考えることが大事なのです。未経験の方のアドバイスは参考程度にしておく方が良いと思いました。だいたい受け売りの事が多いのです。また根拠の無いことは信じない方が良いと思います。根拠が無いと間違ったとき対策のしようがありません。
また、私は昔、写真撮影機材を作ったこともあります。多分売れるだろうと思いプロのカメラマンに聞いてみました。答えは、「売れないと思う」でした。他、10人以上に聞いてみましたが同様の回答でした。「売れると思う」と言った方はいませんでした。よく分からないというのが本音だったと思います。それは当然だと思います。その製品については、開発した私が一番詳しいのですから自分で考えた結果を信じて行動するしかありません。実際にヤフオクで販売したところ、落札件数ランキングは全国で15位になりました。
上記2件について、私は、分からない人に知らない事を聞いてしまったのです。経歴、役職、外見、年齢などで惑わされずアドバイスの根拠を確認するようにしましょう。できるだけ同じような経験をした方に聞くのが一番良いと思います。しかし、新分野で新製品を開発している場合は、同じ経験をした人はいないので、この先現れる問題を自分で考えて予測しなければなりません。
また、自分で考える理由は、責任は自分にあるからです。そして、考えた結果を自分のものにするためです。新しい事を発見したり発明したりした場合、自分の権利として特許登録すると知的財産になります。
このようにして、自分で考え、価値あるものを造りあげ、自分の財産として取り扱えるようになるとリスクを負って考えた対価が得られます。自分で考えるもう一つの理由は、付加価値の高い対価を得ることです。他人が考えた物を作っていては工賃しかいただけません。付加価値を稼ぐには自分で考えて結果を自分の財産として自由に取り扱う必要があるのです。結局、利益は知恵からしか生まれないのです。
少し詳しく書いてみました。
専門家の「それは売れない」は信じるな。利益は”自分の頭で考え抜く力”からしか生まれない
今回は、「自分で考える」というテーマについて、私が過去に直面した2つの実例をもとにお話しします。常識や権威、他人の意見に惑わされず、自らの思考を貫くことが、いかに事業の成功に不可欠であるかをお伝えできれば幸いです。
ケース1:「地元で売れない物は外で売れない」という”常識”の嘘
かつて、私はある酒蔵のアドバイザーを務めていました。蔵からの要望は「とにかく知名度を上げてほしい」という一点。早速、蔵を訪問し、杜氏が丹精込めて醸した絞りたての日本酒を試飲させていただきました。
その一口で、私は衝撃を受けました。芳醇な香りと、米の旨味が凝縮された深い味わい。これまで自分が「日本酒」というものを全く知らなかったと思い知らされるほどの感動でした。「こんなにも美味しい酒が、すぐ近くにあったとは…」。私はこの酒が持つポテンシャルを確信し、「これは絶対に売れる。知名度も必ず上がる」と直感しました。
しかし、事を進めるにあたり、念のため知人である上場企業の役員に意見を求めてみました。彼は長年ビジネスの第一線にいる、いわば経営の先輩です。しかし、彼から返ってきたのは、冷ややかな一言でした。
「地元で大して売れていないものが、外の世界で売れるわけがないよ」
私がその理由を尋ねても、明確な答えはありませんでした。おそらく、彼の中で確立された一種の「成功法則」であり、それ以上の深い根拠はなかったのでしょう。私はその言葉に違和感を覚えました。彼の経験則は、この唯一無二の酒が置かれた特殊な状況に当てはまるのか?否、本質はもっとシンプルではないか。「この酒を本当に飲みたい人に、的確に届けさえすれば良い」。私は自分の直感と論理を信じることにしました。
その後、具体的な戦略を立ててアドバイスを実行していきました。数年後、あの酒蔵の日本酒は、世界的な栄誉であるノーベル賞の授賞式晩餐会で、2年連続で採用されるという快挙を成し遂げたのです。
この経験は、私に重要な教訓を与えました。人生や経営の先輩の言葉であっても、それが当事者としての経験に基づいたものでなければ、参考程度に留めるべきである、と。根拠の薄いアドバイスは、時として革新の芽を摘むノイズになりかねません。
ケース2:”専門家”が誰も見抜けなかった製品の価値
もう一つ、写真撮影に使うある機材を自ら開発し、販売した時の話です。
「これは売れるだろう」という手応えはありましたが、独りよがりは危険だと考え、プロのカメラマンたちに意見を求めることにしました。その道のプロであれば、製品の価値を正しく評価してくれるはずだ、と。
しかし、結果は惨憺たるものでした。10人以上のプロに見せましたが、返ってくる答えは判で押したように「いや、これは売れないと思う」という否定的なもの。「売れる」と言ってくれた人は、一人もいませんでした。
彼らはなぜ、口を揃えて「売れない」と言ったのか。おそらく、彼らの本音は「よく分からない」だったのでしょう。それは当然です。彼らは既存の機材を使いこなすプロではあっても、世の中にまだない、全く新しいコンセプトの製品の価値を測る専門家ではないのですから。
その製品について、世界で一番詳しいのは誰か?それは開発者である私自身に他なりません。 私は、専門家たちの否定的な意見に惑わされることなく、自分の考えを信じて行動する決断をしました。そして、その機材をヤフオク!で販売したところ、瞬く間に人気商品となり、全国の落札件数ランキングで15位に入るほどのヒットを記録したのです。
この2つの事例に共通しているのは、「知らない人に、分からないことを聞いてしまった」という私の過ちです。私たちは、経歴や役職、外見といった「権威」に惑わされがちですが、本当に重要なのは、そのアドバイスに「実体験に基づいた具体的な根拠があるか」です。
なぜ、「自分で考える」ことが決定的に重要なのか
では、なぜこれほどまでに「自分で考える」ことが重要なのでしょうか。私は、その理由を3つの側面から捉えています。
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責任の所在: 最終的に事業の結果責任を負うのは、アドバイスをくれた他人ではなく、決断した自分自身です。だからこそ、他人の意見を鵜呑みにするのではなく、自ら考え、納得した上で行動しなければなりません。
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権利の獲得: 自分で考え抜き、新しい発見や発明に至った場合、その成果は「知的財産」として自分の権利になります。特許などがその典型です。自分の頭で考えた結果だからこそ、それは守られるべきあなただけの財産となるのです。
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付加価値の創出: これが最も重要な理由です。利益は、知恵からしか生まれません。 他人が考えたものを作っているだけでは、得られるのは労働対価である「工賃」だけです。しかし、自分で考え、他にない価値を創り出し、それを自らの権利(財産)として市場に提供することで、初めて「付加価値」、すなわち高い利益を得ることができるのです。
新分野で挑戦している場合、同じ経験をした先駆者はどこにもいません。未来を予測し、現れる問題を一つひとつ解決していく力は、自らの思考の中にしか存在しないのです。
常識を疑い、権威に臆さず、自分の頭で考え抜く。その先にこそ、真の成功と、リスクを負った者だけが手にできる正当な対価が待っているのです。
