ここまで製品仕様を決める方法を説明してきました。しかし、製品を製造販売しても独占しなくては利益になりません。他社が同じような物を安く販売するからです。
1995年、起業直後にマイコン制御で動作する製品のメーカーをやっていました。外注に払った設計費の総額は1千万円です。製品単価は40万円ほどでした。初年度1人で1億円以上売り上げました。ユーザーサポートも大変でしたが何とかこなすことができました。
インターネットが使えるようになり紙製品を販売したことがあります。3ヶ月間で650万円の利益が出ました。この二つを比べてみたとき気づいたことがあります。何を売っても、もらった1万円札は同じだということです。ならば開発費が安い物の方が効率が良いのです。しかし、開発費が安い物は単純な物が多く、すぐに真似されます。そこで特許が必要になります。特許登録までに数十万円かかったとしても開発費に1千万円より遙かに安いのです。
まず特許を取るためには、これまでにどのような出願があるのか先行技術を調査する必要があります。JplatPatというサイトで検索可能です。ここでの調査が成功と失敗を分けます。私は、現在先行技術調査に慣れたので特許登録率は100%です。調査し出願しているので当たり前です。通常特許の権利は、過去にあった技術と今回開発した技術の境界まで取得できるものと思われています。しかし、出願明細書に正直にそのような権利範囲を書いても審査官は、拒絶する理由を何か探さなければいけないのです。そこで境界を境に権利範囲を主張しても審査官に押されて譲歩する必要が出てきます。そして本来取れるべき権利範囲から一歩引き下がった権利範囲が特許になってしまいます。この対策としては、主張する権利範囲を境界よりも少し押し気味に書くことです。そうすると審査官は、「ここ出過ぎ」とそこを理由に拒絶理由通知を送ってきます。そうなればストーリー通りで「・・は審査官殿の仰るとおりです。・・・」というふうに訂正し当初目標の権利範囲の特許を取得します。このような審査官とのやりとりは出願時点で想定しておきます。ですから出願明細には審査官とのやりとりの台本を盛り込むのです。脚本家の才能も必要なのです。特許のプロからは「また審査官を騙したのか?」とよく言われます。
製品が完成し特許も登録になれば仕事は完了です。あとは作って売る作業に入ります。作って売ることは仕事ではなく作業です。他社を排除し独占状態で自社製品を売るブルーオーシャンになります。私は、ブルーオーシャンしか経験がありません。そしてやめる時期も自分で決めます。始まったものは必ず終わるのです。勝って終わる決断力が必要です。
少し詳しく書いてみました。
利益を生む「独占」の作り方:製品開発と特許戦略の本質
ここまでは、製品の仕様を決める方法について説明してきました。 しかし、優れた製品を「製造販売」するだけでは、安定した利益を確保することはできません。なぜなら、他社がすぐに同じような物を安く販売し、熾烈な価格競争が始まるからです。
ビジネスで本当に重要なのは、自社製品を「独占」し、競争のない市場(ブルーオーシャン)を作り出すことです。今回は、そのための最も効率的な方法、すなわち「特許戦略」についてお話しします。
「儲け」の本質に気づいた二つの経験
1995年、私が起業して間もない頃、マイコン制御で動作する製品のメーカーを運営していました。 この製品は開発に莫大なコストがかかり、外注の設計会社に支払った総額は1,000万円にも上りました。製品単価は約40万円と高額でしたが、幸いにも初年度から一人で1億円以上を売り上げることができました。しかし、高機能な製品ゆえにユーザーサポートも大変で、なんとか日々をこなしている状態でした。
その後、インターネットが普及し始めた頃、私はある「紙製品」を企画・販売しました。 すると、わずか3ヶ月間で650万円の利益が出ました。
この二つの経験を比べたとき、私は一つの本質的な事実に気づきました。 それは、「苦労して稼いだ1万円も、簡単に稼いだ1万円も、同じ価値の1万円札である」ということです。
ならば、開発費が安い物の方が、ビジネスとしての「効率」は圧倒的に良いのです。
なぜ「特許」こそが最強の武器なのか
しかし、ここでジレンマが生まれます。 開発費が安い物、つまり構造が単純な物は、すぐに他社に真似されてしまいます。
そこで必要になるのが「特許」です。
特許登録までにかかる費用は、弁理士費用などを含めても数十万円程度です。 これは、私がかつて支払った1,000万円の設計開発費と比べれば、「圧倒的に安い投資」です。
莫大な開発費を投じて技術的な参入障壁を作るよりも、特許を取得して法的な参入障壁(独占権)を作るほうが、はるかに安く、効率的に利益を守ることができるのです。
勝率100%の特許取得術:「調査」と「脚本」
では、どうすれば特許は取れるのでしょうか。
1. すべては「先行技術調査」から始まる
まず特許を取るには、「これまでにどのような技術が出願されているか」を徹底的に調査する必要があります。これは「J-PlatPat」というサイトで誰でも検索可能です。
この調査こそが、特許取得の成功と失敗を分ける最大の分岐点です。 ちなみに私の場合、現在の特許登録率は100%です。これは、私が特別な発明家だからではありません。「特許になると調査で確信したものしか出願しない」という、至極当たり前のプロセスを踏んでいるだけです。
2. 審査官との交渉を前提とした「脚本」を書く
ここからが、プロの技術です。 通常、特許の権利範囲は、「過去にあった技術(先行技術)」と「今回開発した技術」の”境界線”まで取得できるものだと思われています。
しかし、出願明細書にこの”境界線”通りの「正直な権利範囲」を書いても、すんなり特許になることは稀です。 なぜなら、特許庁の審査官の仕事は、その出願を「拒絶する理由を探すこと」だからです。
彼らは何かしらの理由を見つけて拒絶理由通知を送り、出願人に譲歩を迫ります。その結果、本来取れるはずだった”境界線”から一歩引き下がった、より狭い権利範囲でしか特許が認められないケースが多発します。
この対策として、私は「出願時にあえて境界線よりも少し”押し気味”の権利範囲を主張する」という戦略をとります。
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まず、本当に取得したい「本来の権利範囲(ゴール)」を明確に定めます。
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出願明細書には、そのゴールより意図的に「少し広い範囲」を書いて提出します。
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案の定、審査官は「この”押し気味”の部分は出過ぎだ」と指摘し、拒絶理由通知を送ってきます。
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私は「審査官殿の仰る通りです」と、その”押し気味”の部分だけを削除する補正を行います。
こうすることで、審査官は「拒絶理由を指摘し、出願人に修正させた」という職務を全うでき、私は「当初のゴール通り」の権利範囲で特許を取得できます。
これは、出願時点で審査官とのやり取りをすべて想定し、「台本」を明細書に仕込んでおく作業です。まさに脚本家の才能も必要とされる世界です。特許のプロ仲間からは「また審査官を騙したのか?」とよく言われますが、これは「騙す」のではなく、お互いが着地すべきゴールへ導くための高度な「交渉術」なのです。
「仕事」を終え、「作業」に移る
製品が完成し、特許も登録になれば、あなたの「仕事」は完了です。
「仕事」とは、このように市場を分析し、戦略を立て、独占権を設計する「頭脳労働」のことです。 あとの「作って売る」という行為は、もはや「仕事」ではなく、誰にでもできる「作業」でしかありません。
他社を法的に排除し、独占状態で自社製品を売る。 これが、私が「ブルーオーシャン」と呼ぶ状態です。私は、このブルーオーシャンしか経験がありません。
そして、この戦略の最大の利点は、「やめる時期も自分で決められる」ことです。 始まったものは必ず終わります。競合に食い荒らされて赤字になって撤退するのではなく、利益が出ているうちに「勝って終わる」決断力を持つこと。それこそが、源流を握るメーカーの真の強さなのです。
