創造_最強の企業

帝国ニュース北陸版(出典:帝国データバンク発行 帝国ニュース北陸版)

株式会社ソロモン 代表取締役 砂原康治 (商品開発アドバイザー)

 ほとんどの業種において各企業の役割は、最終製品を消費者に届けることだと思います。その一部を担っていたとしても、担当した物は最終製品のメーカーへ納められ、完成品となり最終的に消費者が購入します。では、最終製品を自社で開発・製造して直販しているメーカーはどうでしょうか。全ての工程を自社内で行い、消費者に直接販売しています。誰でもできる行程は外注を使う事があると思いますが、全てを自社でできるということです。具体的には、商品企画、製品開発、特許登録、製造、販売、ユーザーサポートなど、源流から川下まで全てを行います。ということは全ての知識やノウハウがあるということです。経験を積んで、さらにノウハウが蓄積されていくことでしょう。では、一部分だけを担当している企業はどうでしょうか。自社が担当していない部分を知ろうとすれば、新たに知識を入れる必要があります。これが勉強だと思います。その知識が無くても知恵があれば順序立てて考えれば知識を作ることができます。
 それでは、どの行程を担当している企業が一番利益を出しているでしょうか。部品の原料を作っている会社でしょうか。部品を加工している会社でしょうか。最終製品のメーカーでしょうか。たぶん最終製品のメーカーだと思います。メーカーとは投資業であり、開発投資を行いたくさん製品が売れて目標の利益が出れば成功、目標を下回れば失敗ということになります。メーカーとは必ずしも製造業ではありません。
 私の場合、1994年から直販メーカーをやっていて、全ての行程を一人で行っています。通常だと弁護士、弁理士、司法書士に頼むことも自分で行います。
 私が思うメーカーの仕事とは下の図のようなものです。製造業は、製造のみを担当しています。そこからメーカーになろうとすると仕事量は10倍くらいに増えると思います。但し、投資に成功すれば短期間で大きなリターンが期待できます。
 2021年に手数料20%のクラウドファンディングで5千個以上売れた製品があります。そのクラウドファンディングでの販売量は1位か2位だと思います。小売りチェーンのT社がそのクラウドファンディング会社と提携し、店頭販売する製品に選ばれました。その際の手数料は40%に引き上げるとのことです。原理の特許を持ちユーザーに直販できている会社の製品を販売したいから卸値を下げろとの要求です。回答は、「当社からの卸価格は変更しません、T社の取り分は値上げして捻出してください」と回答し納得して頂きました。まだ昭和を生きているようです。直販メーカーとは無敵なのです。景気にも左右されません。ただ消費者が欲しいものを作ればよいのです。

アイディアをかたちに

少し詳しく書いてみました。

なぜ「直販メーカー」は無敵なのか? サプライチェーン全体を握る強さ

 

多くのビジネスにおいて、一つの製品が消費者の手元に届くまでには、多くの企業が関わっています。これを「サプライチェーン(供給網)」と呼びます。

例えば、ある製品が完成するまでには、以下のような流れがあります。

  1. 原料を作る会社

  2. 原料を仕入れ、部品を加工・製造する会社

  3. 部品を集め、最終製品として組み立てるメーカー(製造業)

  4. 製品を仕入れ、消費者に販売する卸売・小売業

ほとんどの企業は、このサプライチェーンの一部を担っています。自社が担当した部品やサービスは、次の工程の企業(例えば最終製品メーカー)に納められ、バトンが渡されていきます。

では、この中で最も強い立場にあるのは、どの工程を担う企業でしょうか。

部品の原料メーカーでしょうか。加工会社でしょうか。 おそらく、多くの場合は「最終製品のメーカー」だと考えられます。

 

「メーカー」の本質は「製造業」ではなく「投資業」

 

ここで、「メーカー」という言葉を再定義する必要があります。 私は、「メーカー」とは必ずしも「製造業」のことではないと考えています。

メーカーの本質とは、「投資業」です。

新製品を生み出すために、まず商品企画や製品開発に大きな「開発投資」を行います。そして、その製品がたくさん売れて目標の利益が出れば「成功」、目標を下回れば「失敗」となります。 製造(モノづくり)は、その投資活動の一部に過ぎません。

 

最も強力な形態「直販メーカー」

 

メーカーの中でも、特に強力な形態があります。それが、企画・開発から販売までを自社で一貫して行う「直販メーカー」です。

具体的には、以下の工程のすべて、つまり「源流から川下まで」を自社でコントロールします。

  • 商品企画

  • 製品開発

  • 特許登録(知財戦略)

  • 製造(または製造委託管理)

  • 販売(自社ECサイトなど)

  • ユーザーサポート

一部分だけを担当する企業は、当然ながら自社が担当していない部分のノウハウは蓄積されません。もし知ろうとすれば、新たに外部から「知識」として勉強する必要があります。

しかし、直販メーカーは違います。 全工程を自ら経験することで、単なる知識を超えた生きた「ノウハウ(知恵)」が社内(あるいは私のように個人)に蓄積されていきます。

私自身、1994年から直販メーカーとして、これら全ての行程を一人で行ってきました。通常であれば弁護士や弁理士、司法書士に依頼するような法律・知財業務も含めて、すべて自分で行っています。

 

「直販メーカー」の交渉力(具体例)

 

この「源流から川下までを握る」ことが、どれほどの力を持つか。具体的な事例をご紹介します。

2021年、私が開発したある製品が、手数料20%のクラウドファンディング(CF)で5,000個以上売れるヒットとなりました。これは、そのCFサイトでも1位か2位の販売量です。

その実績を見て、大手小売チェーンのT社が「ぜひ店頭で販売したい」と、CF会社を通じて提携のオファーをしてきました。 しかし、そこで提示された条件は、「手数料を40%に引き上げる」というものでした。

彼らの主張を要約すると、「(CFとは比較にならない)T社の販売網で売るのだから、卸値を下げて、我々の取り分(手数料)を増やせ」という要求です。 これは、T社が販売チャネル(川下)を独占しているという、従来の「昭和型」の力関係に基づいた交渉でした。

しかし、私は以下の理由で、この要求を拒否しました。

  1. 私はこの製品の「原理の特許(源流)」を押さえている。

  2. 私はすでにCFや自社サイトで「ユーザーに直販できる(川下)」手段を持っている。

私は彼らにこう回答しました。 「当社の卸価格(取り分)は一切変更しません。御社(T社)の取り分が40%必要なのであれば、店頭での販売価格を値上げして捻出してください

驚くべきことに、この回答は了承されました。 これは、私が単なる「製造業」や「下請け」ではなく、特許という「源流」と、直販という「川下」の両方を握る「直販メーカー」であったからに他なりません。T社は私の製品を販売したい。しかし、私はT社に依存する必要がなかったのです。

 

結論:なぜ「直販メーカー」は無敵なのか

 

私が「直販メーカーは無敵だ」と主張するのは、これが理由です。

「製造」だけを担当する製造業から、すべての工程を担う「メーカー」になろうとすれば、仕事量は感覚的に10倍くらいに増えるでしょう。非常に大変です。 しかし、その投資(リスク)に成功すれば、短期間で大きなリターン(利益)が期待できます。

そして何より、「無敵」とは「景気や他社の都合に左右されない」という意味です。

下請け企業であれば、親会社の業績が悪化すれば、理不尽なコストカットや契約終了に怯えなければなりません。しかし、直販メーカーは、他社から不利な条件を押し付けられることがありません。

私たちは、ただ一つ「消費者が欲しいものを作る」という本質的な活動に集中すればよいのです。 これこそが、直販メーカーの最大の強みだと確信しています。